野球の練習を終えて部室へ道具の片付けに。僕は一人でその片付けを終えて寮の部屋へと戻った。
 だけど……部屋に入った先で、筋トレをしていた友人が目に入る。そこまではいつものこと。でも、動きが不気味になっていた。
「おう、理樹いま帰ったか」
「あ、うん。ただいま」
 僕はそんな返事をしながらも部屋へと踏み込む。そして、真人がいましていることを観察。
「んっ、なんだ理樹。そんなにオレの筋トレ姿がかっこいいか?視線に出てるぜ」
 そんなものを僕は見てない、と口に出そうと思ったけど心にとどめておく。
 そして一目見てわかったこと。筋トレをしながら勉強をしている。真人がこんな器用な真似をするなんて信じられなかった……。
 だから、その疑問をすぐに解決しようとする。
「なんで真人は、そんなことやってるの?」
「これか?聞きたいのか理樹、おまえもやりたくなっちまうぞ?」
「もったいぶらないでいいからさ」
「そうか、教えて欲しいのか……なら教えてやろう」
 真人はこっちを向いて喋ってはいるが、いまだ筋トレと勉強を続行中。
「筋トレやりながら勉強をすれば両方の効率が上がるって教えてもらった。今はそれを実践中だ」
 教えてくれた相手が誰なのかはあえて聞かないことにしとこう。なんか予想がつく。
「ということで理樹っ、一緒にやろうぜ!」
「僕はやりたくない。以上」
 夕飯食べて寝よう。

 翌日。廊下を歩いていてふと、掲示板に知り合いの名が書かれた張り紙を見つけた。その正体は――



  『来ヶ谷唯湖の悩み事相談室』


 来ヶ谷さん、なにをしてるんだろう……。
 近づいて、その紙に書かれている内容に目を通す。
『諸君らが最近気にしていること、もっとこうなりたいことなど、悩んでいることがあったら私へ相談しろ。私が容赦なく解決してやる』
 あぁ、昨日の真人も来ヶ谷さんの被害者だったのかな……、と思った。
 主に放課後、野球の練習が終わった後に活動している。また、張り紙の最後には『可愛い娘大歓迎』と付け足されていた。
 なんか気になるから放課後、行ってみようかな………。

 教室へと入ってクラスを見渡す。だけど、いつもは無い物がいくつも机の上に置いてあった。もちろん、僕の机とて例外ではなかった。
 机の上に置かれているそれを確認するため、真人、鈴、謙吾と一緒に席へと向かう。
 向かった先では、鈴が真っ先に声を上げた。
「あっ、これは見覚えがあるぞ!」
「どうした、鈴」
 謙吾が訊いて、鈴が指差す。その先は鈴の机の上。僕もそれを確認する。
「これは前に、こまりちゃんから貰ったお菓子だ」
 教室のいたるところに点在するものは鈴の言う通り、お菓子みたいだった。
 そして、その時。計ったかのように小毬さんが現れる。
「みんな〜、おはよ〜」
 ニコニコ笑顔は健在。変わらぬ調子で話しかけてくる。
「おい神北、これはお前がやったのか?」
 真人は教室全体を見渡して訊く。
「うん、私がやったよ」
 笑顔。その笑顔で今の台詞を繰り返されたら怖いかも……なんて思った。
「どうしてだ?」
「みんなにもっと幸せになってほしいから、かな?」
 なんでここで疑問符がついてしまうのかが疑問だった。
 その後。真人と謙吾は席に着いてしまったし、鈴と小毬さんは話を始めた。僕も席に着こうと思ったとき。

 がらがらっ――
 後ろでドアが勢い良く開き、なんだろうと思って確認しようとしたのも束の間。そこから出てきた人は僕の後ろに隠れた。
「ゼぇ…はぁ…ゼぇ…はぁ…。り、理樹くんちょっとここで隠れさせて……」
 その人は息切れしている。葉留佳さんだとすぐ分かった。
「な、なんで?」
「この世全ての悪が私を追いかけてきたんですヨ……」
「誰のこと?」
「多分もうすぐくる……あ、それとね、私の居場所を聞かれても『僕の後ろなんかにはいないよ』って答えてほしいんですヨ!」
 その言葉を言い終えた瞬間。目の前のドアが開き、葉留佳さんを追って来たその人物がいた。その人は教室を見渡し、僕を見た。
「いない……みたいね」
 その人は僕に話しかけることもなく、ドアを閉めて去って行ってしまった。
「もう行ったよ」
 それを聞いた葉留佳さんは、僕の背後から出てきた。
 あとそうだ。いちおう、このことは訊いておこうと思う。
「なんで二木さんに追われてるの?」
「なんかさ、ちょっと前から私に異常なほどベッタリしてくるようになったんだ」
「へぇ……」
 としか言えなかった。
「最初はまぁ、いいかなぁぐらいに思ってたんだけどさ、途中からなんか怖くなってきて……それからは毎日逃亡生活ですヨ」
「大変だね」
「大変ですヨ」
 会話を繰り返してたら突然、ふっ、と僕達の傍を影が通過した。その時、声が聞こえてきた。
「少々、やりすぎてしまったようです……」
 周りを見渡すと、僕と葉留佳さん以外いなかった。そして、聞こえた声は西園さんの声にしか思えなかった。その肝心の西園さんの姿は見えない。ふっ、という音も西園さんが出していたような気がする。

 そして、その後すぐに葉留佳さんは二木さんに捕まっていた。いつのまにか教室へと忍び込んでいたらしい。
 葉留佳さんが捕まった時の会話はこんな感じだったかな、と思い出してみる。
『……葉留佳、私と仲良くはなりたくないの?』
『いや……まあそんなんじゃないんですけどぉ………』
『まだ私の愛が足りてないと言うのね。分かったわ、これからもっと―――』
 十分仲の良い姉妹だと、このやりとりを見て勝手に思った。

 そのまま、野球練習後へと時間は経った……。

 僕はまず片付けを終えようと残った道具を整理していた。その僕の元へとクドがやってきた。
「リキ、おつかれさまです」
「うん、おつかれさま」
「ちょっとですね、すぴーくしたいことがあるんです」
 クドの言葉に少しだけ、僕は戸惑ってしまった。言葉の意味ではない。クドが、迷わずに英語で話してるとこに戸惑った。
「え、えーっと話したいことって?」
「はい、へるぷしていんにーどおぶなのです」
 言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかる。
「助けて欲しいってことかな?」
「いえすっ、そうなのです」

 クドの助けて欲しい、って内容は『ヴェルカがごーあうとしてしまったのでるっくふぉーしていんにーどおぶなのです』と言うことだった。
 そして、たまに戸惑っている僕を見てクドは『こんでぃしょんがでぃふぃかるとなのですか?』とも訊かれた。その時、なんて返したかは覚えてない。
 ずっとこんな調子のクドには、慣れないままだった。簡単に言えば聞き取りにくかった。……でも無事に見つかったヴェルカを見てまあ、いいか。なんて思った。

 その後は、朝に感じた疑問を解決するべく来ヶ谷さんがいるとこへと向かう。そこには、すでにテーブルがひとつと、イスがふたつ、用意されていた。
 僕はそのままひとつのイスに座る。そして、しばらく経つと来ヶ谷さんがどこからともなく現れた。
「少年だったか」
「うん、僕だよ」
 来ヶ谷さんはテーブルを挟んで僕の向かい側のイスに座った。
「ここに来たということは、悩み事でもあるのか」
「まあ……一応」
「では、私に話してくれ。すぐに解決が出来るだろう」
「じゃあ、なんで来ヶ谷さんはこんなことしてるかに悩んでるんだ」
「……面白い悩み事だな、少年」
 来ヶ谷さんは笑っていた。
「そうかな?」
 僕のそんな疑問にそうだ、と簡単に来ヶ谷さんは答えていた。
「それじゃあ、なぜこんなことをしているか答えてやろう」
 来ヶ谷さんは一息ついた。
「純粋に私は人々が抱える悩み事というのを知りたかった。感情を知る普通の人はどんな悩みを持ち、どんな事に興味を持つのか、それを知りたかっただけだ。それだけだ」
 それ以上、待っても続きは出てこなかった。
「それだけ?」
「もちろんだ」
 来ヶ谷さんはまた笑っていた。
「じゃあ、もうひとついい?」
「別にいいが」
「えっとね、今日までにどんな悩みが寄せられたの?」
「……それは基本企業秘密だが、少年なら構わないか」
 来ヶ谷さんは、少し考えた素振りを見せてすぐに話し始めた。
「最近やって来た悩みなら、『どうすればこれ以上効率よく筋トレできるか教えてくれ』という悩みだったな」
 ……真人だ。
「次は『もっとみんなに幸せをわけるにはどうすればいいのかな?』という悩みだ」
 ……小毬さんだ。
「その次は『妹ともう少し仲良くなるにはどうすればいいんですか?』という悩みだ。このときは私と一緒にこの悩みに答えてくれた人がいた」
 ……もう何も言うまい。
「そして、次は『英語を簡単に使用出来る方法はないのですか?』という悩みも来たな。ある本を渡しただけで喜んで帰った」
 ……。
「ついさっきは、『リトルバスターズジャンパーを普及させたいがどうすればいい?』という悩みもやってきた」
 ああ、リトルバスターズ。どうなっていく……。
「そして、最後はつい最近ではないが面白い悩みも来た」
「どんな……?」
「そうだな、『地下迷宮の仕掛けを簡単に解いてくれるパートナーが欲しい』だったかな……」
 面白い、というよりかは不思議な悩みだ。
「その時、来ヶ谷さんはなんて答えたの?」
「その時か……。その時は冗談だと思ってここは結婚相談所ではないぞ、とだけ答えた。それを言った後その生徒は笑いながら去っていった。でもそれが冗談ではないとすれば、地下迷宮というものがあり、そこに行けば楽しくなりそうだとは思わないかね?」
「うーん……僕にはよくわかんないかな」
「そうか。とりあえず今日はここでおしまいだ。私は片付けをするから少年は先に帰った方が良い」
「うん、ありがと来ヶ谷さん」
 僕はそれを言い残して寮へ戻った。

 寮へ戻る途中。女子寮の前で小毬さんを見かけた。だけど僕はその小毬さんが、赤と青の色が目立つ物を着ているように見えて、不思議に思った。
 僕の見間違いだったかな、と思い直して寮へ戻ることにした。

 その後はもう部屋へと着いた。
 なにも起こらないようにと思って部屋に入ること自体が間違っていたのかな。
 部屋へと入ると、筋トレしながら勉強している真人がいた。そこまでは昨日と同じだった。着ている服以外は。
「おう、理樹。今帰ったか」
 筋トレと勉強をしながらこっちを向いて話しかけてきた。不気味だった。
 夕飯を食べよう。
「おっ、おい。理樹、どこにいくんだよっ」
 後ろからの声なんて無視した。

 次は学食へと移動。そこで出会ったのはクド。
「リキ、いぶにんぐみーるをとぅぎゃざーしましょうっ!あざーのみなさんもいますよ」
 クドの声がした方へ向き直ったら、赤と青と白の服が目に入った。
「う、うん……」
 メニューを注文してクドに連れられるまま席へ。そこにいたのは、鈴、小毬さん、葉留佳さん、西園さん。その全員が同じ物を着けていた。
 学食を見渡すと、所々に赤と青い服が見える。


 そこで僕は叫ぼうとしたとき。

 目の前は真っ暗になった。そして、僕は倒れた。

 意識は、消えた。


―――

「次は気をつけろ、謙吾」
「あ、あぁ…すまん……」

「理樹、次は頼むぞ……」







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