「なあ、理樹」
「うん?」
 理樹と真人は部屋で一緒に筋トレ中だった。そんな中、真人は理樹に話しかけていた。
「魔法、ってあったらいいよな…」
「うん、そうだね。でもどうして急に?」
「だってよ、魔法の力ですぐに筋肉がムキムキになるじゃねえか!」
 腹筋をしながら二人は話をしているが、二人にとっては造作もないことで涼しげな顔をして腹筋に臨んでいる。
「でもさ、真人は前に言ったよね」
「ん………?オレはなんて言ったんだ?」
「『筋トレはさ、やっぱこうやって筋肉がムキムキになる想像をしながら鍛えてる時が一番楽しいよな!』って僕と一緒に腕立て伏せをやりながら言ってたよ」
 そう、数週間前、理樹は真人が口にしたことを覚えていた。それも筋トレ中に。
 真人が言葉を出す前に理樹は続けて喋る。
「魔法ですぐに筋肉がムキムキになったらさ、その真人の一番の楽しみがなくなっちゃうよね?」
 理樹は表情を変えないまま言い切った。対する真人は苦しそうな表情をしていた。
「そうだったな……その楽しみがなきゃオレは…オレは……死んだも同然だ…。理樹、ありがとな」
 その言葉に理樹は無言の返事をする。
 今、身体を止めないで筋トレすることが二人にとっても一番だったから。
 真人はそのことにも気を止めないで、。

「でもさ、理樹。やっぱ魔法ってすげぇとおもわねえか?」
「なんで?」
「魔法の力でさ、筋トレの効率をよくすることが出来れば、すぐ筋肉ムキムキになれるじゃねえか!」
「うん、そうだね」
 理樹は息を切らさないで続ける。
「でもさ、真人は前に言ったよね」
「お…オレはなんて言ったんだ?」
「『筋トレはよ、こうやってムキムキになる想像をしながら地道にコツコツやった後の疲労感や達成感が一番気持ちいいよな!』って僕と一緒にヒンズースクワットをしながら言ってたよ」
 理樹は咳払いをひとつして続ける。
「魔法で筋トレの効率が良くなったりしたらさ、その真人の言う一番気持ち良いことがなくなっちゃうよね?
「そうだったな…オレは……どうかしてたみたいだ……。理樹、ありがとな」
 真人の感謝の言葉を理樹は沈黙で返す。

「なあ、理樹」
「うん?
「やっぱ魔法っていらないな」
「そうだね」









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